附属伝統建築研究所 |
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平成24年6月30日に本会中村光彦専務理事の瑞宝小綬章 叙勲を記念し、「伊勢神宮式年遷宮と伝統文化・技術技能の伝承」と題する講演がアルカディア市ヶ谷(私学会館)にて行われた。 本会専務理事 中村 光彦
[略歴]
[講演概要] 1.伊勢神宮について神道は、仏教が我国に伝来以前からあった我国古来の自然神をもととする宗教で、日本人固有の自然感から生まれた多神教であり、今日も鎮守の森、祭等を通して、各地の生活に根づき伝統を伝えている。伊勢神宮とは一般的な呼び名であって、皇室の祖神である天照大御神を祭ってある内宮と食をつかさどる豊受大御神を祭ってある外宮を中心とした神社が全部で125あり、それぞれに神を祭った名称をもつ神社からなる。我国に約7万ほどある神道の神社の中で神宮といえば伊勢神宮のことを指す。 2.式年遷宮について式年遷宮は壬申の乱の後、690年、持統天皇の時代に始まったとされる。壬申の乱は古代史上の大変革期で、律令体制の整備と共に、それ以前から伝来していた仏教建築に対して、改めて日本古来の伝統様式を確立しようとしたものと考えられる。式年遷宮の目的には諸説あるが、第一の目的とされているのは、神が住まわれる社殿や神宝、装束が長年の期間を経て劣化し、また見苦しくなるのを防ぐため、20年ごとに建て替え更新するもので、今回は62回目で、平成25年から26年に亘って行われる。式年遷宮は、石造建築のように物理的に永遠性を求める観念でなく、寿命が来たものを建て替えながら、永遠性を求めるという、自然との共生をもとにした我国固有の観念によるものといえる。 一例として社殿の柱はあえて掘立柱とて基礎がなく、地中にそのまま入っているが、4重の垣に囲まれた社殿の柱は地中から直に地上に伸び、その囲りを白石を敷きつめた聖なる空間が形成されており、また、内宮、外宮の正殿床下の中心に象徴的に残されている真の御柱からも掘立柱の意味の重要性が理解されるが、掘立柱が傷まないのは20年程度が限度とされている。そして、20年ごとの式年遷宮には様々な伝統技術・技能を世代間で跡切れることなく、世代から世代に確実に伝承する目的もあると考えられている。 3.伊勢神宮の建築としての価値伊勢神宮の社殿には、日本古来の農耕の作物を入れるための高床の倉を基とした日本の風土、伝統の原型を見ることができる。そこには、木や萱の材料や構造がそのまま生のまま活かされた、最もシンプルで風土に根ざした力強さと研ぎすまされた洗練さの究極的な均衡の姿が見られる極めて価値の高い建築としての評価を得てきた。かつて日本に3年余り滞在したことがあるドイツの世界的建築家であるブルーノ・タウトは、我国の風土に根ざした極めて価値の高い建築として伊勢神宮をあげ、更に世界的視点からも高い普遍的価値を有するものであるものとしている。また、その極限まで単純化され、洗練された姿には、日本人固有の感性の原点が認められると共に、近代合理主義の流れに通じるものもあると考えられている。 4.式年遷宮と環境問題伊勢神宮の社殿では自然と建築との関係で、自然と建築との究極的な調和が見られる点でも、日本人固有の自然感に基づくものと考えられ、更に今日重視されている環境問題に連なる視点からもとらえることができる。式年遷宮では、大量のヒノキを使う。もともとは伊勢の宮域林から用材を切り出していたが、宮域林の原木が枯渇してきたことに伴い、木曽のヒノキが使われるようになった。しかし、そのままでは、木曽の木にも限度があるため、宮域林でヒノキを計画的に植林する200年計画が進められている。今回の式年遷宮では、宮域林の80年程経た間伐材が全体の木材の使用量の約25%初めて使われる。また、式年遷宮では、旧社殿の古材は他の神社で再利用されることとなっており、今日的視点での環境面でも優れたサスティナビリティのシステムであると考えられる。 5.伝統文化・技術・技能の伝承と継承の今日的意味先般ある席上で、我国の代表的最先端企業の代表者が伊勢神宮・式年遷宮は、モノ造りの原点であると語っているのを耳にしたことがあるが、伊勢神宮・式年遷宮は単に過去の伝統文化を貴重なものとして伝えるのではなく、自然との共生から育まれた我国固有の研ぎすまされた感性を現代に伝え、未来に伝えて行くことにも意味があるものと考えられる。そして、それは伝統技術・技能の伝承・継承という観点からも極わめて重要で根元的なことと考えられる。 |
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