この度、試験実施機関より令和7年度一級建築士設計製図試験の結果が発表されましたが、発表された事項の中で最も注目される点として、試験の採点結果の4段階の評価のランクの中で最も低いランクⅣの割合が激減しているのに比して、ランクⅣに次いで評価の低いランクⅢの割合が例年の2倍以上の53.7%に激増している点が特に注目されます。
以上の結果から考えられることは、極めて基本的な事項に重大な不適合のあるランクⅣに相当する評価とされるものは、受験者の一定のレベルの向上等により激減している一方で、それに次いでランクが低いと評価されるランクⅢ(知識・技能が著しく不足しているもの)が激増した要因としては、建築計画上の基本事項ともいえる法令の遵守その他の習得することにもそれ程難しくないものに欠陥のあるものが激増したとは考えにくく、あくまでも建築計画そのものの基礎力の不足が主要因であったと考えることができます。
今年度の本試験の課題は、特に大きな想定外の条件もなく、一見、難易度としては易しいと感じられるものでしたが、この課題条件のような建物を実際に設計するとしたならば、基本設計に何ヶ月もかけて検討することとなると考えられる程に様々な難しい内容を含むもので、法令の遵守等の計画の基本事項の他に、しっかりした建築計画力を要する、相当に難しい建築計画上の内容を含むものであったといえます。
予め試験課題発表時に示された留意事項として示された点は以下の4点で、
① 敷地の周辺環境に配慮して計画する。
② バリアフリー、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、セキュリティ等に配慮して計画する。
③ 各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
④ 大地震等の自然災害が発生した際に、 建築物の機能が維持できる構造計画とする。
また、本試験の設計条件としては以下の4点が示されていました。
① 誰もが使いやすい施設計画
② 夜間、土日祝日におけるセキュリティへの配慮
③ 省エネルギー及び二酸化炭素排出量削減への配慮
④ 大地震等の自然災害が発生した際の庁舎の機能維持
以上の留意事項、設計条件を踏まえて以下にこの課題の建築計画上、特に留意すべき課題の条件、建築計画上の留意点、すなわち建築計画上の採点のポイントともなると考えられる点についてみて行くこととします。
(1)敷地についての条件
敷地周辺の条件として、敷地周辺は、北側は幅員14mの道路を挟んで地上2階建ての店舗併用住宅、東側は幅員6mの道路を挟んで公共駐車場・駐輪場、南側は防火上有効な公園、西側は公共駐車場・駐輪場からなりますが、以上の敷地条件より、先ず、メイン(利用者用)とサブ(管理用)のアプローチを適格に計画する必要があり、北側の幅員14mの広い幅員の道路側からメイン(利用者用)アプローチをとり、東側の幅員6mの狭い幅員の道路側からサブ(管理用)アプローチをとることが基本的、一般的な考え方といえます。
なお、南側は課題条件にも公園との関係性に配慮することとあることから、試験の解答としては住民交流スペースの公園側に出入口を設けることが安全であると考えられます。
(2)建物の計画についての条件
建物の延床面積について、この課題では、近年の課題条件の特長でもある自由度の高い課題条件として延床面積の制限が示されていません。
このため、この敷地の面積は1,680㎡で、敷地の建蔽率の限度は80%(所定の加算を含む。)、容積率の限度は300%であることから、延床面積は建築面積1,344㎡の3倍の4,032㎡が最大となります。ただし、建築計画上、敷地境界と建物の距離を南側(公園側)は3~4m程度、北側(建物正面メインアプローチ側)は3~5m程度、東側(サブアプローチ側)は3~5m程度確保する他、車が駐車する場合の間隔や、道路斜線制限の影響も考慮する必要があり、また、西側は2~3m程度確保する必要があることを考慮して、計画を進めなければならないことに留意する必要があります。
バリアフリーに関する課題条件として、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に規定する「建築物移動等円滑化基準」を満たすものとする(主たる階段は、幅1,400㎜以上、蹴上げ160㎜以下、踏面300㎜以上とする。)という条件が示されています。
以上の条件に付いて、先ず、建物の1階部分では、メインアプローチに連なる利用者ゾーンとサブアプローチに連なる監理者ゾーンを明確に区分し、利用者ゾーンにメイン(利用者用)階段を設け、管理者ゾーンにサブ(管理用)階段を設け、メイン階段(場合によっては、メイン階段とサブ階段)はバリアフリーに係わる課題条件を満たすものとしなければなりません。この場合、この階段が納まるための条件として、建物の階高、柱間スパンの寸法にも留意する必要があります。
(3)要求室についての条件
議場の計画(3階指定、200㎡以上)については、議員席12席、執行部席10席、傍聴席30席(車椅子使用者用スペースを設けることが望ましい)とし、関連の施設として、議長室、委員会室、議員控室、議会事務局、議場ロビー、図書・資料室、給湯室等を適切に設けること等が課題条件として示されています。
建築計画上の重要なポイントとして、先ず、議場の天井高は3~4m程度、階高を4~5m程度として、無柱空間とする構造とするとともに、傍聴者はメイン(利用者用)階段、EVを利用することとし、議員、職員はメイン(利用者用)階段、EVおよびサブ(管理用)階段を利用することとすることとし、一般利用者と議員、職員の動線を分離し、議場傍聴席への傍聴者の動線と議場入口、議長室、委員会室、議員控室等への議員、職員の動線を明確に整理する必要があります。
事務室の計画(計700㎡以上)の課題条件として、
・職員80名が在席勤務し、
・待合スペースや窓口カウンターのほか、複数人で利用できるプライバシーに配慮した相談ブースを適宜設けることが示されています。
以上の条件から、事務室の計画については1階と2階に振り分けて設けるか、全てを2階に設けるか等については、待合スペースや窓口カウンター等の他に管理部門との関係や大会議室等の配置等、全体計画と共に検討する必要がある計画上、入念な検討を要する点であるといえますが、建築面積等の諸条件から、事務室を1,2階に振り分けて設けることが妥当で、2階のみに設けることには無理があるといえます。
大会議室(150㎡以上)の課題条件としては、
・3室以上に分割可能(各室に出入口を設ける)とする。
大地震等の自然災害が発生した際は、災害対策本部として使用するものとすることが示されています。
以上の条件から、大会議室の計画については3室以上に分割可能とすることとされているため、全体として使用する場合、3室等として分割して使用するいずれの場合も無柱空間で長短辺比1:2程度までの矩計の形状とすることをスパン割との関係で考える必要があります。 また災害対策本部としても使用することから、特に町長室、副町長室、事務室との動線についても考慮し、できるだけメイン階段の近くに設ける必要があります。
住民交流スペースの課題条件として
・土日祝日も利用可能な計画にする。
・公園との関係を考慮する。
・住民交流のための展示スペースのほか、交流ラウンジを設ける計画とすることが示されています。
カフェの課題条件として
・土日祝日も利用可能な計画にする。
・暖房を設け、大地震等の自然災害が発生した際は、炊き出しなどに利用できるようにすることが示されています。
以上の条件より、住民交流スペースとカフェはいずれも一般利用者が気軽に交流等のため利用する施設として、1階エントランスホールに隣接させ、公園との関係をも考慮して南側に設けることが好ましく、特に住民交流スペースは特記事項に公園との関係性に配慮することと記されていることから、住民交流スペースの公園側に出入口を設けておくことが試験の解答としては安全であると考えられます。また、カフェの厨房は自然災害時の炊き出し等にも利用することからエントランスホールへの動線を考慮して設けることも必要です。
また、住民交流スペース、カフェは土日祝日も利用可能とするため、ほかの部門とシャッター等により単純明解な区分のできる計画となっている必要があります。
建物の構造
大地震等の自然災害が発生した際に建物の機能が維持できる構造とする。
課題条件で、耐震構造、免震構造、制振構造等から選択することとなっていることから、一般的ともいえる免震構造とすることでよいと考えられます。
以上、建築計画上の主な課題条件として留意すべきものをあげましたが、先にも記しましたように、これらの個々の条件は、それぞれ一見、特に難しいものではないようなものにも見えるものの、この課題の条件にはいわゆる一般の町役場の枠を超えたともいえる住民交流スペースや防災拠点の機能等をも含むものであり、また自由度の高い課題条件として延床面積の指定を含まないことなどからも、全体計画をまとめるためには相当の建築計画力を要する課題であると考えることができます。
以上から、特に採点の基準を高くするまでもなく、受験者の基礎的な建築計画力の有無を評価するのに工夫された、従来にも増して建築計画に力点を置いた本来の設計製図試験の主旨に沿った、また、近年の試験の傾向にも沿う課題であったと考えられます。
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本講座は、設計(建築計画)及び製図についての着実な基礎力の養成から着実な合格力の徹底養成を図るものですが、特に近年の試験の傾向から、合格のための重要な鍵となるどのような課題にも共通し、対応できるような基本的な建築計画の考え方、建築計画力の徹底養成を図る内容となっております。
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