合格への鍵 講座 > 本試験の総評 > 設計製図試験の総評(一級)
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今年度の本試験の課題は、特に大きな想定外の条件もなく、一見、難易度としては易しいと感じられるものでしたが、この課題条件のような建物を実際に設計するとしたならば、基本設計に何ヶ月もかけて検討することとなると考えられる程に様々な難しい内容を含むもので、試験の場合にどのような採点の基準になるかにもよりますが、相当に難しい建築計画上の内容を含むものであったといえます。
予め試験課題発表時に示された留意事項は以下の4点で、
① 敷地の周辺環境に配慮して計画する。
② バリアフリー、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、セキュリティ等に配慮して計画する。
③ 各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
④ 大地震等の自然災害が発生した際に、 建築物の機能が維持できる構造計画とする。
また、本試験の設計条件としては以下の4点が示されていました。
① 誰もが使いやすい施設計画
② 夜間、土日祝日におけるセキュリティへの配慮
③ 省エネルギー及び二酸化炭素排出量削減への配慮
④ 大地震等の自然災害が発生した際の庁舎の機能維持
以上の留意事項、設計条件を踏まえて以下にこの課題の建築計画上、特に留意すべき問題点等についてみて行くこととします。
(1)敷地条件
① 周辺条件
敷地周辺は、北側は幅員14mの道路を挟んで地上2階建ての店舗併用住宅、東側は幅員6mの道路を挟んで公共駐車場・駐輪場、南側は防火上有効な公園、西側は公共駐車場・駐輪場からなります。
② アプローチの検討
北側:幅員14mの道路を挟んで地上2階建ての店舗併用住宅 …メイン(利用者用)アプローチとする。
東側:幅員6mの道路を挟んで公共駐車場・駐輪場 …サブ(管理用)アプローチとする。
南側:南側は防火上有効な公園 …住民交流スペースの特記事項において、公園との関係性に配慮することとあることから、試験の解答としては住民交流スペースと公園を結ぶ出入口を設けることが安全であると考えられます。
西側:西側は公共駐車場・駐輪場…特にアプローチ指定はないためアプローチについて計画する必要はありません。
(2)建物の計画についての条件
●建物の延床面積についての条件
この課題では、近年の課題条件の特長でもある自由度の高い課題条件として延床面積の制限が示されていません。
このため、準住居地域及び準防火地域で建蔽率の限度は80%(所定の加算を含む。)、容積率の限度は300%であることから容積率の上限は5,040㎡となりますが、建蔽率が80%であることから延床面積は建築面積1,344㎡の3倍の4,032㎡が最大となります。但し、建築計画上、敷地境界と建物の距離を南側(公園側)を3~4m程度、北側(建物正面メインアプローチ側)を6~7m、東側(サブアプローチ側)を4~6m、西側を2m程度とすることを考慮して、建築面積、延床面積を決めなければならないことに留意する必要があります。
●「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に規定する「建築物移動等円滑化基準」を満たすものとする。(ただし、主たる階段は、幅1,400㎜以上、蹴上げ160㎜以下、踏面300㎜以上とする。)
定石通り、階段は利用者ゾーンにメイン(利用者用)階段を設け、管理ゾーンにサブ(管理用)階段を設け、メイン階段を課題条件の「建築物移動等円滑化基準」を満たすものとします。この場合、この階段が納まる条件として、建物の階高、柱間スパンの寸法にも留意する必要があります。
(3)要求室
●議場(3階指定、200㎡以上)
・議員席12席、執行部席10席、傍聴席30席(車椅子使用者用スペースを設けることが望ましい)。
・その他、議長室、委員会室、議員控室、議会事務局等は、適切に設ける。
その他… 議場ロビー、図書・資料室、給湯室等
議場の天井高は3~4m程度、階高を4~5m程度とし、一般利用者はメイン(利用者用)階段、EVを利用することとし、議員、職員はメイン(利用者用)階段、EVおよびサブ(管理用)階段、EVを利用することとして、一般利用者と議員、職員の動線を分離し、また一般利用者側の議場傍聴席のゾーンと議場入口、議長室、委員会室、議員控室等の議員、職員側のとのゾーンのゾーニングを明確にする必要があります。
●事務室の計画(計700㎡以上)
・職員80名が在席勤務する。
・待合スペースや窓口カウンターのほか、複数人で利用できるプライバシーに配慮した相談ブースを適宜設ける。
事務室の計画については1階と2階に振り分けて設けるか、全てを2階に設けるか等については、待合スペースや窓口カウンター等の他に大会議室等の配置等、全体計画と共に検討する必要がある計画上、難しい入念な検討を要する点であるといえます。
●大会議室(150㎡以上)
・3室以上に分割可能(各室に出入口を設ける)とする。
大地震等の自然災害が発生した際は、災害対策本部として使用するものとする。
大会議室の計画については3室以上に分割可能とすることとされているため、無柱空間で 全体として使用する場合、3室等として分割して使用するいずれの場合も長短辺比1:2程度までの矩計の形状とすることをスパン割との関係で考える必要があります。
また災割対策本部としても使用することから、特に町長室、副町長室、事務室との動線についても考慮する必要があります。
●住民交流スペース
・土日祝日も利用可能な計画にする。
・公園との関係を考慮する。
・住民交流のための展示スペースのほか、交流ラウンジを設ける計画とする。
●カフェ
・土日祝日も利用可能な計画にする。
・暖房を設け、大地震等の自然災害が発生した際は、炊き出しなどに利用できるようにする。
住民交流スペースとカフェはいずれも一般利用者が気軽に交流等のため利用する施設として、1階エントランスホールに隣接させ、公園との関係をも考慮して南側に設けることが好ましく、特に住民交流スペースは特記事項に公園との関係性に配慮することと記されていることから、住民交流スペースと公園を結ぶ出入口を設けておくことが試験の解答としては安全であると考えられます。また、カフェの厨房は自然災害時の炊き出し等にも利用することからエントランスホールに面して設けることも必要です。
また、住民交流スペース、カフェは土日祝日も利用可能とするため、ほかの部門とシャッター等による単純明快な区分のできる計画となっている必要があります。
●建物の構造
大地震等の自然災害が発生した際に建物の機能が維持できる構造とする。
課題条件で、耐震構造、免震構造、制振構造等から選択することとなっていることから、一般的ともいえる免震構造とすることでよいと考えられます。
以上、建築計画上の主な課題条件として留意すべきものをあげましたが、先にも記しましたように、これらの個々の条件は、それぞれ一見、特に難しいものではないようなものにも見えるものの、この課題の条件にはいわゆる一般の町役場の枠を超えたともいえる住民交流スペース等をも含むものであり、また自由度の高い課題条件として延床面積の指定をも含まないことからも、全体計画をまとめるためには相当の建築計画力を要する計画であると考えることができます。
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