合格への鍵 講座>本試験の総評>設計製図試験の総評(一級)
試験内容の概要
まず本年度の課題の特徴としては、近年の試験の課題条件の傾向ともいえる、設計対象建物の延べ面積や要求室の設置階を指定しない、受験生が考えなければならない受験生の裁量の余地の大きい、いわゆる自由度の高い課題条件となっていることが挙げられ、それだけ高度な課題条件となっているといえます。
また、本年度の試験課題である「図書館」の課題としての要求室は、一般開架スペースや児童開架スペース、対面朗読室、自習室等の図書館としての基本的ともいえる室の他に、地域住民の交流、文化活動の場ともなる施設として、企画展示スペースやセミナールーム、カフェ等の諸室が要求されていることが特徴といえます。(一般開架スペース等のスペースとしているのは、必ずしも一般開架室等の室形状のものでなくてもよいことを示していると考えられます。)
しかしながら、この課題では従来の試験の課題条件として含まれることの多い、建築計画に大きな影響を及ぼす各階に通じる吹抜け(アトリウム)や2層分の天井高のホール等が含まれている訳ではなく、受験生にとって一見取り組みやすい、難度も比較的高くない課題のように思われた方も多かったのではなかったかと思われます。
なお、その一方で、本年度試験の課題条件の内の法規の条件では、例年の課題でも留意すべき条件となっている容積率(300%)、建蔽率や防火区画、延焼ラインの記入、2以上の階段の重複距離等を考慮した設置等の他に、本課題では、南側の道路からの斜線制限と北側隣地斜線制限が注意すべき点となっており、余り従来の課題では出題されたことがない北側隣地斜線制限については、特に注意が必要な点となっています。
本課題の考え方、留意すべき点
上記のことから、本課題では、建築計画上、敷地の接道条件から西側の幅の広い道路から利用者用のメインのアプローチをとり、南側の幅の狭い道路から管理用のサブのアプローチをとり、例えば1階には、管理部門の諸室の他に、主として地域住民の交流の場としての企画展示スペースやセミナールーム、カフェ等を設け、2階には主として児童開架スペースとその関係室を設け、3階には一般開架スペースや関係室としてワークルームを設ける等の階別のゾーニング案が一般的な解答案として考えることができます。
なお、上記の場合に2階と3階を入れ替える案も可能であると考えられます。
以上のように、本課題では、建築計画上に大きな影響を与えるような、3層に渡る吹抜け(アトリウム)や2層分の天井高を有する比較的大きなホール等が含まれている訳ではないため、上記のような各階に渡るゾーニングを基とした計画案を作ることは試験の課題としてそれ程に難度の高い課題であるとはいえないとも考えられますが、他方、前述のように道路斜線制限や北側隣地斜線制限等にも気付き、それらの高さ制限をもクリアーしていなければならないことを併せて考えると、この課題の難度は決して低いものではないこととなります。
本課題の本質的な意味
以上が一般的な試験の課題としてのこの課題の内容についての考え方となる訳ですが、もう少し厳密にこの課題について以下に考えてみることとします。
すなわち、この課題の条件として示されている地域住民の交流、文化活動等の場ともなる企画展示スペースやセミナールーム等の諸室とは、図書館という枠の中で考えるべきなのか、またはこれらの地域住民の交流、文化活動のための諸室は図書館という枠を超えた更に広い活動のためのものとして考えるべきものなのかということで、仮に実際に設計をする場合であれば、この点について発注者と設計者との間で設計上の重要な前提として非常に厳密な打ち合わせ、議論が行われることになると考えられます。
この点、この課題では、設計条件として、まず、「企画展示スペース等を有する地域の公立図書館を計画する」と記されており、その後に、計画にあたっての留意事項として、多世代の利用や多様性の尊重等を促し、地域住民の文化活動の拠点とすると記されているため、これらの諸室はあくまでも図書館としての枠を超えたものではなく、図書館の諸室の内の一部のものということとなります。
以上から考えてみると、仮に採点の基準が厳密なものであったとすると、あくまでも図書館の中のセミナー室等は閲覧室等に比べると一部の人が使う室とも考えられるため、1階に設けるよりも3階あたりに関係諸室とまとめて設ける方が好ましいとも考えられ、その場合、一般的な考え方としては図書館としての静寂さを保つために、児童閲覧スペースと関係諸室は上階に置くよりも一階に置くことが望ましいともいえます。
以上の考え方は、あくまでも採点上の基準によって変わり得る訳で、採点上の基準の置き方によっては、この課題は課題条件をより厳密に解釈し、分析することが求められることとなり、建築計画上必ずしも難度の高くない課題とはいえないこととなります。
以上は、あくまでも採点の基準がどこに置かれるかによって変わってくる訳で、仮に採点の基準が厳密なものとなるとすれば、この課題の建築計画上の難度は相当上がることともなり、他方、採点の基準がそれ程に厳密なものでなければ、この課題は建築計画上あまり難度が高いものでないとも考えることができる訳です。
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