
近年の一級建築士学科試験では、従来の出題範囲を超えた新規の内容の設問を含む問題や、従来の出題範囲内からの出題であっても、より深い理解力を要する設問を含む問題等が一定の割合で出題されるようになって来ました。
本年の試験では、学科Ⅰ(計画)、学科Ⅴ(施工)において、そのような傾向が顕著に見られた反面、学科Ⅱ(環境・設備)、学科Ⅲ(法規)、学科Ⅳ(構造)では総じて過去の出題範囲からの問題が多く、概ね例年並みの難易度であったといえます。
計画の出題分野は建築計画各論の他、建築史、都市計画から設計・工事監理者の職責やプロダクトマネジメント等、多岐に渡りますが、本年の試験では、特に建築計画各論、建築史、都市計画の分野で新規の内容の設問を含む問題が多く、やや難度が高かったといえます。
特に近年のストック型社会の到来を反映した新規の問題として、伝統的建築物群保存地区に係わる問題は、新たな傾向の問題として今後も注目されます。
環境・設備の出題分野は、建築環境工学、建築設備からなりますが、建築環境工学では、特に理論に対する着実な理解を要する分野で、暖房熱負荷、水平面照度、外気取り入れガラリに関する問題で計算問題が出題されました。
また、建築設備は、特に近年、社会的関心の高くなっていることでも注目される分野で、本年はデシカント空調、PAL、建築物省エネルギー性能表示制度に関する空調、省エネルギーに係わる問題で新規の内容の設問を含む問題が出題されましたが、総じて、建築環境工学、建築設備共に過去の出題範囲内の標準的な問題が多く、概ね問題の難易度は例年並みか、やや低かったといえます。
法規の出題分野は、建築基準法と建築関係法令からなりますが、建築基準法は、この内20問で例年通りの出題比率で、一部に特定天井、屋外観覧場、神社等に関する新規の設問を含む出題がありましたが、総じて、問題の難易度は概ね例年並みだったといえます。
また、建築関係法令の分野では、特に建築士法に係わる問題が3題出題されましたが、近年、建築士法が重視されてきている傾向のある中で、今後も特に注目されます。
構造の出題分野は、力学、一般構造、材料からなりますが、各分野の出題比率は例年通りで、一部にプレストレストコンクリート構造、高強度コンクリート等に関する新規の設問を含むものもみられましたが、概ね出題の内容も従来の出題範囲内からのもので、難易度も総じて例年並みであったといえます。
但し、構造の分野では正解に至るために、理論に対する着実な理解力が不可欠な問題が多く、理論に対する確実な理解力の有無が得点に大きく影響することに留意しておく必要があります。
施工は出題関連分野が特に広く、また専門用語が多岐に渡るのが特徴ですが、本年の出題内容としては、負の摩擦力対応杭、乾燥収縮ひずみ度、中性化速度係数、接着界面における破壊率等、新規の比較的高度の内容の設問を含む問題が多く出題され、総じて難度は例年よりやや高かったといえます。
施工では、多方面の詳細なことについての正確な知識をいかに、施工管理等の経験のない場合でも、着実に整理して身に付けておくかが得点のための重要な鍵といえます。
本年の学科試験の問題は、一部に新規の比較的高度の問題が出題されましたが、5科目全体では概して、過去の出題範囲からの標準的な問題が多く、総じて難易度は例年並みか、やや低かったと考えられます。
但し、仮に難易度が低く、多くの受験者の得点分布が高かった場合には、合格基準点が予定よりもやや高めに調整される可能性があるなど、試験の合否は、相対的評価によって決まることも理解しておく必要があります。すなわち、問題が易しければ、試験は易しくなるとか、問題が難しければ試験は難しくなるとは必ずしも言えないこと、問題が易しければ易しい問題をとりこぼすことは、致命的ともなり得ることを理解しておく必要があります。
更に、高度な新規の設問を含む問題であっても、その問題の4枝の設問が全て新規の設問である例は少なく、多くの場合、過去の設問の枝が含まれていて、新規の設問が解けなくとも、過去の設問が解ければ正解に至ることも多いことなどから、過去の出題範囲からの標準的な問題をいかに確実に得点できるかは、新規の新傾向の設問が解けることと優劣をつけ難い程に重要なポイントとも考えることができます。
- 2015年7月27日 -
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