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令和4年度二級建築士設計製図試験の講評

試験課題の概要

二級建築士設計製図試験の木造の課題として初めて非住宅の建物として出題された本年度の試験課題「保育所」は、今後の二級建築士設計製図試験の木造の課題の幅の広がりを考える上でも注目されるものでしたが、極めて素直な、あくまでも基本的計画力を総合的に評価する良問といえるものでした。

試験課題の特徴

① 課題の基本条件
課題対象の保育所は、小規模保育事業に該当する保育所で、設計の基本的な条件として、
・自然採光・自然換気を積極的に取り入れる計画とすること
・環境負荷低減に配慮した計画とすること
・安全・防犯に配慮した計画とすること
が示され、環境・省エネルギー及び安全・防犯という、近年重視されているテーマが設計基本条件として示されました。

② 2階に保育室等のない条件の課題
保育所については、一般的には保育室等は1階に設けられるべきものであるものの、敷地が狭隘な場合などでは、準耐火構造として必要な避難施設等を設けることにより、保育室等を2階に設けることも可能となる訳で、そのようなやや難度の高い課題となる可能性も全く否定はできなかった訳ですが、本試験課題では、そのような課題ではなく、前述のように極めて素直ともいえる課題条件のものが出題されました。

③ 敷地条件
敷地は、北側にのみ道路の接し、東側に公園の隣接する17m角の正方形の敷地で、保育所のいわば中心的施設ともいえる乳児室、ほふく室、保育室は、南側に設けた屋外遊技場に面して南側に設ける場合と、東側に設けた屋外遊技場に面して東側に設ける場合とが考えられ、いずれの場合も可と考えられますが、南側に屋外遊技場を設ける場合は、その遊技場と敷地東側の公園との視覚上の連なりを考える等、何らかの形で課題条件である東側公園との関係を計画上考慮に入れておく必要があると考えられます。

④ 小規模保育所事業としての保育所の計画
最も規模の小さい認定保育所に属するこの施設では、保育室も2歳児用一室のみで、保育所に通常、設けられると考えられる遊戯室もなく、建築計画上の難度は高くなかったとも考えられますが、他方、この課題では相談室を除く、他の全ての要求室について必要面積が示されておらず、全てが特記事項から受験者自らが考えなければならなかったという点では、逆にやや難度の高かった課題であったともいえます。

⑤階段の蹴上、踏面の寸法の指定
この課題では、2階に直接、園児が出入りする室を設けることが求められていないため、階段の蹴上、踏面の寸法についての問題は余りなかったとも考えられますが、本課題では、近年の木造の試験課題で求められている、安全性に配慮した、やや緩めの階段としての蹴上、踏面が求められました。 階段の位置は、建築計画上の要ともいえる重要ポイントであるとともに、詳細に平面計画を考える上で蹴上、踏面の寸法も重要なポイントとなる留意事項となります。

以上のように、本試験課題の保育所は、規模も小規模で比較的建築計画上の難度は高くなかったとも考えられますが、他方、前述のようにほとんど全ての室の必要面積が示されておらず、特記事項によって受験者が適宜と考えられる室の面積を考えねばならないため、仮にこの面積が不適当であった場合は、設計上の基本条件が不適当となってしまうため、この点では従来とは別の意味で難度の高い課題であったともいえるもので今後の試験の課題の方向の一つを示すものであったとも考えられます。

また、小規模な保育所の課題であったとはいえ、利用者(園児・保護者)の動線と管理者(調理室、事務室、2階への階段等)の動線やゾーニングの整理等については、大規模な保育所と変わらない配慮が求められる、基本的な採点上の重要ポイントとなる点についても留意しておく必要があります。

以上から、総じて本年度の試験課題は、一見、難度の高くない、やや平易ともいえる課題とも考えられるものの、実際には、基本事項をしっかり押さえておかなければ対応することのできない、その意味では必ずしも難度の低い課題ではなかったともいえます。

課題発表前からの早期スタートが合否の鍵となる理由とは
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