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2020年一級建築士試験 「設計製図の試験」の課題の講評!集合住宅

(注) 建築基準法令等に適合した建築物の計画(採光、建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)とする。

建築物の計画に当たっての留意事項

  • 敷地の周辺環境に配慮して計画する。
  • バリアフリー、省エネルギー、セキュリティ等に配慮して計画する。
  • 各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
  • 建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
  • 構造種別に応じた架構形式及びスパン割りを適切に計画するとともに、適切な断面寸法の部材を計画する。
  • 空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、昇降機設備等を適切に計画する。

注意事項

「試験問題」及び上記の「建築物の計画に当たっての留意事項」を十分に理解したうえで、「設計製図の試験」に臨むようにして下さい。
なお、建築基準法令や要求図書、主要な要求室等の計画等の設計与条件に対して解答内容が不十分な場合には、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」等と判断されます。

課題の解説

本年度の一級建築士設計製図試験の課題は、上記のように「集合住宅」と発表されたが、過去にも集合住宅と関係のある課題として、平成18年・「市街地に建つ診療所等のある集合住宅」、平成13年・「集合住宅と店舗からなる複合施設(3階建)」、平成11年・「高齢者施設を併設した集合住宅」、昭和62年・「店舗などの施設のある市街地共同住宅」、昭和47年・「保育所(乳児室をもつ)のある市街地の共同住宅」等、実に様々な施設との複合施設として出題されており、集合住宅のみの単体の施設として出題されたのは、平成5年・「メゾネット住戸のある集合住宅(3階建)」のみである。

他の施設との複合施設として出題された課題の集合住宅における住戸は、ほとんどの場合がメゾネットタイプでないフラットタイプのものであったのに対し、「メゾネット住戸のある集合住宅(3階建)」では、課題文にも示されているメゾネットタイプの住戸が主体で、しかも、様々なタイプのメゾネットの住戸を複雑に組み合わせなければまとめることができない極めて難度の高い課題であったということも留意しておく必要がある。

なお、本年の課題は「集合住宅」とされていて、「メゾネット住戸のある集合住宅」とはされていないものの、集合住宅にはメゾネット住戸のあるものも含まれるため、本年の課題においてもメゾネット住戸を含むものが出題される可能性は当然あり得ると考えられる。

但し、メゾネット住戸は一住戸が2層からなっていて内部に階段を有するため、バリアフリー上の問題がないとはいえず、また一住戸の規模も大きくなる傾向があることからメゾネット住戸が主となる課題条件となる可能性は少ないのではないかと考えられる。

他方、本年の課題のように単体施設としての集合住宅の課題では、当然、本来の集合住宅と異なる保育所等の施設との複合施設となることはないと考えられる一方で、本来、集合住宅の機能の一部とも考えられる管理運営のための会議室や集会室、一部のマンションの例でも見られる集合住宅の住民のふれ合いの場としてのコミュニティルームや屋内または屋外のコミュニティプラザ、更に付属の小公園やプレイロット等が含められる可能性もあるとも考えられる。

また、集合住宅の課題としては、当然住環境をどのように計画上考えるかも極めて重要な要素であり、この意味からは例えば、隣接する公園をどのように計画に生かし、当該施設から望める景観をどのように計画に反映させるか等も、重要な課題条件となり得ると考えられる。

ちなみに、近代建築における集合住宅の原点ともいえるコルビュジェの設計になるマルセイユのユニテ・ダビタシオンでは、直訳通りの集合住宅の単位として、コルビュジェの建築言語であるピロティ、屋上庭園の他に、日常生活用品の売店等が組み込まれている他、更に、大規模な集合住宅において良好な居住環境を得るために、全ての住戸がメゾネットタイプで構成されている。

また、我国における高層住宅の黎明期の歴史的作品として、我国の近代建築の旗手ともされる前川國男設計の晴海高層アパートが挙げられるが、ここでは、かつて前川の師事していたことのあるコルビュジェ設計によるユニテ・ダビタシオンの考え方を取り入れ、高密度の集合住宅における居住環境の改善を図る考え方から、やはり住戸の全てがメゾネットタイプで構成されるなど、実に様々な工夫が施されている。

更に、京都周辺の連峰のイメージから斜めの柱を採用した京都国際会館の設計者としても知られる大谷幸夫設計の、川崎市河原町高層住宅では、やはり、斜めの柱を大胆に採用することにより、高層の集合住宅の基盤部に大規模なコミュニティプラザを形成することを可能にするなど、近未来都市型高層住宅として、大きな注目を集めた。無論、一級建築士設計製図試験では、あくまでも一般的、基礎的な考え方を基本とする試験であることから、これらの例を直に参考とすることはできないものの、集合住宅では、居住環境とともに、住民のコミュニティがいかに重要視されているかを、上記の例からも伺い知ることができる。

以上のように、本年の課題の「集合住宅」は、一見単純なもののように考えられるものの、計画上、実に広く、深い内容の様々な要素を含む課題条件となる可能性が高いものであることから、相当に高度な計画力を要するものとなることが予想され、それだけに、精選された演習課題による緻密な計画力の養成が不可欠であると考えられる。

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