全日本建築士会について 50余年の建築士育成事業の実績をもとに、社団法人全日本建築士会が総監修した、建築関連資格の特別養成講座

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令和2年度一級建築士設計製図試験の講評

本年度の試験では、平成24年に行われた試験の内容の見直し以来、継続してきた建築計画力を重視する傾向が一層顕著となり、特にその前提となる課題条件(設計条件)の理解・把握の重要性が一段と増すものとなりました。以下に試験内容で、特に留意すべき重要ポイントについて記すこととします。

ユニットケア

近年の介護施設においては、介護をよりきめ細かく効率的に行うために、療養室、介護関係諸定を同一パターンとして計画し、ユニットケアする実例が多く見られるようになってきましたが、本年度の課題では、居住施設部分におけるユニットケアが設計条件の基本となっており、課題条件の正確な読み取りとユニットケアについての正確な理解が不可欠なものとなっています。

地域住民との交流

本課題の施設は、介護施設として地域の高齢者にもサービスするもので、また地域住民との交流を図ることも目的とするものとなっています。このため、この施設では、通所者(デイケアー)や短期宿泊者(ショートステイ)の居宅部分において、また特に共用部分の地域交流スペース等において周辺地域への開放性の高い計画が求められ、その一方でセキュリティにも十分配慮した計画が求められることとなります。

セキュリティへの配慮

本施設へのセキュリティについては、施設全体のセキュリティ、居宅サービス部門に対するセキュリティ、居住部門に対するセキュリティ等、様々な段階のセキュリティが考えられる一方で、前述の周辺地域への開放性も求められるため、これらをどのように両立させるかも計画上の重要なポイントとなると考えられます。

バリアフリーへの配慮

本施設は、介護施設であることの性格からバリアフリーへの高い配慮が求められますが、課題条件としては、昨年に引き続き「円滑化誘導基準」ではなく、「円滑化基準」によることが求められており、また、課題の留意事項として「屋内の廊下については、有効1.8m以上を確保する」ことが求められています。

一般的に公的施設では、利用者ゾーンの廊下巾は有効1.8m以上とすることが必要とされる一方で、管理ゾーンでは、有効1.8m以上の廊下巾を求められることはありませんが、本課題では字句通りに解釈すれば全ての廊下巾は1.8m以上とすることが求められていることとなります。

利用者ゾーン以外の廊下巾を1.8m以上としなかった場合に減点の対象となるか否かは不明ですが、このような場合、試験ではあくまでも安全側に考え、全ての廊下巾を1.8m以上として計画することが望ましいと考えられます。

インフルエンザ、ノロウイルスへの感染対策

高齢者が多く集まり、宿泊する施設として高度の感染対策が求められる本施設では、新鮮空気を取り込む換気を行うことが必要であるため、空冷ヒートポンプパッケージ方式による空調は好ましくなく、あくまでも新鮮空気を取り込む換気機能を有する空調方式によることが必要となります。

既存建築物撤去範囲の埋戻部分への対応

本年度の試験で初めて地盤について一部に既存建築物撤去範囲への埋戻部分のある地盤断面図が示されましたが、GL-1.5m以深のN値30以上の砂礫層を支持地盤とする直接基礎方式によることが可能で、埋戻当該部分は地盤改良を行うのが適切な対応と考えられます。

以上のように本年度の試験の課題条件は一部に新規の項目をも含むものであり、また設計条件を把握するためにも高度な理解力を要する比較的難度の高い内容のものであったといえます。

本会の設計製図講座では、本年の試験の重要項目ともいえる「ユニットケア」、「地域住民との交流」等についても課題演習での重要ポイントとして複数回とりあげるなど、徹底した分析による精選課題により合格に必要な建築計画力の養成を図ることとしております。

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