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合格への道~重要必須事項について、近年の問題を通して解説~

(本欄は、当会の建築士講座講師が適宜分担して執筆し、当会建築士講座監修者(元国土交通省室長)が総合監修します。)

(第14回)令和5年12月8日

リノベーションからコンバージョンへ

前回でも記しましたように近年は、ストック型社会の到来により、良好な社会資産の蓄積のためのリノベーションが注目されるようになってきました。リノベーションの意味には、単なる修繕や保全から一歩進んで、本来の価値に対して新たな価値の創出を目指すというような意味があります。そして、本来のその建物の用途から他の用途に転用することによって更にその価値を増すコンバージョン(転用)の例も多く見られます。コンバージョンといわれるこれらの流れは近年の国内・海外での潮流ともなってきており、建築士試験でも出題頻度の高い問題となってきています。

【問題1】建築物の保存、再生等の事例に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

  1. ヴェローナ(イタリア)のカステルヴェッキオ美術館は、歴史的建造物であった市庁舎を市立美術館へ再生させたものである。
  2. ロンドン(イギリス)のテイト・モダンは、第二次世界大戦後の復興時に建設された火力発電所をモダンアートの美術館へ再生させたものである。
  3. パリ(フランス)のオルセー美術館は、鉄道の駅舎を印象派の作品を中心とする美術館へ再生させたものである。
  4. 札幌市のサッポロファクトリーは、ビール工場の煉瓦(れんが)造の建築群を複合商業施設へ再生させたものである。

この問題は、平成24年度一級建築士計画の問題です。

設問1は、14世紀のゴシック様式の城が市立美術館に転用されていたものを、更に建築家カルロ・スカルパが手を加え改修・再生させたもので、設問1は誤りです。

設問2は、ロンドンのテイト・モダンは、火力発電所を美術館へ再生させたものであり、吹抜けの大空間を特徴とするもので、正です。

設問3は、パリのオルセー美術館は、駅舎の大空間を生かしてパリ有数の美術館へ再生させたもので、正です。

設問4は、サッポロファクトリーは、ビール工場の煉瓦造の建築群を大きなアトリウムや地下通路等で結合し、複合商業施設としたもので、正です。

改修により本来の用途と異なる他用途の施設へのコンバージョン(転用)の以上のような例は、いずれも単に建物の他用途への転用ということだけに留まらず、コンバージョンにより新たな建築的価値を創造し、優れた新たな建築物として再生した例といえるものです。 今後、以上のようなコンバージョンの流れは、我国の各地における少子化による小学校の老人福祉施設への転用等の事例にもみられるように、更に加速した潮流となる傾向にあります。

【問題2】都市の再生に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

  1. ロンドンのドックランズ再開発計画は、港湾機能の低下によって衰退したテムズ川沿いの旧港湾地区に複合機能をもたせたプロジェクトである。
  2. ベルリンのポツダム広場再開発計画は、第二次世界大戦とその後の東西分断によって長年更地であった敷地に複合機能をもたせたプロジェクトである。
  3. ソウルの清渓川(チョンゲチョン)復元事業は、首都の中心部を貫通する高架道路を撤去し、かつての河川水辺空間を復元させたプロジェクトである。
  4. イタリアのウルビーノ都市基本計画は、炭鉱の産業遺産を再利用しながら都市全体を再開発したプロジェクトである。

この問題は、平成27年度一級建築士計画の問題で、この問題の設問は、地域・地区の再開発等により新たな機能を持つ地域・地区等へ再生させた例からなっています。

設問1は、かつてテムズ川沿いにあった時代の流れにより衰退していた荷役用のドックの拠点地区を、広大な超高層複合ビルなどが建ち並ぶ地区に再生させた例で、正です。

設問2は、長年更地であったベルリンのポツダム広場地区を再開発によって、事務所、店舗、住宅、映画館、博物館など、複合的な多機能を有する地区に再生させた例で、正です。

設問3は、長年高架道路に覆われ暗渠化していたソウルの清渓川の上に架かる高架道路を撤去し人工の河川水辺空間を再生させた例で、正です。

設問4は、ルネサンス期の建築物が多く遺るイタリアのウルビーノ地区をウルビーノ歴史地区として再整備し再生させた例なので、誤りです。

以上のような地域・地区の再生の例は、問題1のような特定の建築物等の再生の実例に対して、いわば面的な広がりを持つもので、我国においても、近年、歴史的建築物群を中心とした地区の整備、再生プロジェクトなど様々な実施例が見られるようになってきており、今後それらを反映した試験問題の出題にも留意しておく必要があります。

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