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合格への道~重要必須事項について、近年の問題を通して解説~

(本欄は、当会の建築士講座講師が適宜分担して執筆し、当会建築士講座監修者(元国土交通省室長)が総合監修します。)

(第13回)令和5年10月13日

ストックの時代に対応するリノベーション
に関する問題

近年、ストック型社会の到来により、「スクラップ・アンド・ビルドからストック・アンド・リノベーションへ」ということが言われるようになってきました。 これは、高度成長期の社会での造っては壊し、壊しては造って型の社会から、改修・改良により良好な資産の蓄積を図って行く、成熟期を迎えた社会への転換とでも言う意味であると考えられます。 このような近年の社会状況を反映して、建築士試験でも修繕・改修やそれによる他用途への転用(コンバージョン)に関する問題が新傾向の問題として出題されるようになってきて、徐々に出題頻度の高い定番の問題となりつつあります。

【問題1】建築物の保存、再生、活用等に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

  1. 東京駅丸の内駅舎(東京都千代田区)は、赤レンガのファサードをもつ駅舎であり、特例容積率適用地区制度を活用して、未利用容積を周辺建築物に売却・移転したうえで、保存・復原したものである。
  2. 目黒区総合庁舎(東京都目黒区)は、民間企業の本社屋として建築された建築物を、耐震補強、設備改修等を行ったうえで、庁舎として再生・転用したものである。
  3. 神奈川県立近代美術館鎌倉館(神奈川県鎌倉市)は、竣工時の形状を損なうことなく地震に対する安全性を高めるため、免震レトロフィット工法を採用し、保存・改修したものである。
  4. 旧門司税関(福岡県北九州市)は、明治・大正時代の歴史的建造物を活かしたまちづくり(・・・・・)である「門司港レトロ事業」の一環として、明治45年に建築された税関庁舎を、港湾緑地の休憩所等として再生・活用したものである。

この問題は、28年度一級建築士計画の問題です。 この問題は、いずれも近代建築史上の注目すべき建物について、その建物をどのように修復・改修したかという設問と修復・改修後に他用途にどのように転用されて使用されているかという設問からなっています。 いずれも近代建築史上の詳しい知識を要する設問からなる比較的高度な問題であると言えます。

設問1の東京駅は、戦災による仮復旧の跡を戦後長らく留めていたものを、近年、東京駅敷地の容積率の一部を周辺の高層ビルの敷地へ売却する制度の活用による売却費を建設費用の一部に充当すること等により、辰野金吾設計の原型に復元したもので、設問1は正です。

設問2の目黒区総合庁舎は、元は村野藤吾設計による民間保険会社の本社であった建物を耐震補強・設備改修等を行った後に目黒区の庁舎として再生・転用(コンバージョン)したものですので、設問2は正です。

設問3の神奈川県立近代美術館(鎌倉館)は、坂倉準三設計による戦後の本格的な近代美術館の第一号ですが、保存のための耐震改修に免震レトロフィット工法は採用していないので、設問3は誤りです。 なお、設問3の記述は、コルビュジェ設計の国立西洋美術館の耐震改修に関する内容です。

設問4の旧門司税関は、かつて国際貿易港として栄えた門司港を、活気ある都市に再生するために歴史的建物を修復・復元する事業である「門司港レトロ地区事業」の一環として、旧税関庁舎を港湾緑地の休憩所等に再生・転用したものであるため、設問4は正です。

【問題2】集合住宅の計画に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

  1. コーポラティブハウスは、住宅入居希望者が組合を作り、協力して企画・設計から入居・管理まで運営していく方式の集合住宅である。
  2. 中廊下型は、一般に、住棟を東西軸に配置することが多い。
  3. スキップフロア型は、一般に、共用廊下を介さずに、外気に接する2方向の開口部を有した住戸を設けることができる。
  4. 4人家族が入居する住戸の都市居住型の誘導居住面積水準の目安は、95㎡である。
  5. コンバージョンは、既存の事務所ビル等を集合住宅等に用途変更・転用させる手法である。

この問題は、28年度2級建築士計画の問題です。 この問題は、基本的には、集合住宅の計画に関する設問から成る問題ですが、設問5のみは、コンバージョンの意味を問うものとなっています。

設問1,3,4,5は正ですが、設問2は、中廊下型集合住宅の場合、廊下が東西方向となる東西軸型では、廊下を挟んで南向きの住戸と北向きの住戸が出来てしまうため、北向きの住戸が出来るのを避けるため、廊下が南北方向となる南北軸型とするのが一般的です。

なお、設問5のコンバージョンは、建物の元の用途から他の用途に転用・活用するという意味で、古くなった建物を壊さずに活用する保存・再生の一種として近年、様々な実例があります。

問題2は、設問1から設問4までは、既出題範囲内の設問で、設問5のみが新規の用語の意味を問う問題となっていますが、基本的な設問である設問2が誤りであることが分かれば、この問題は解けるので、新規の設問が含まれている問題であっても、実際上、この問題は既出題範囲内の基礎的な問題であると考えることもできます。

上記のように、保存・再生に関する問題はストック型社会の到来により、近年は出題頻度の高い問題となりつつありますが、この種の問題には、近代建築史の知識が欠かせないものが多いため、一種の近代建築史に係わる問題と考えることもできます。

なお、問題2におけるように、新規の設問と既存範囲からの基礎的設問が含まれていて、後者の設問が分かれば問題が解けるような場合には、基礎的知識がしっかり身についていることが問題を解くことが出来る鍵となることにも留意しておく必要があります。

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