平成30年の一級建築士設計製図試験の課題は、上記のように発表されました。スポーツ施設についての課題は、過去に、平成20年の「ビジネスホテルとフィットネスクラブからなる複合施設」、平成14年の「屋内プールのあるコミュニティ施設」、昭和59年の「健康づくりのための屋内運動施設」等が出題されていますが、いずれも近年の健康増進のための施設の充実が社会的課題となっていることの反映と考えることができます。本年度の課題を考える上での主な留意点として以下のような点を挙げることができます。
本課題の意味
課題名が「健康作りのためのスポーツ施設」となっていることから、この施設がスポーツ競技の選手育成等を目的としたものでなく、この施設は一般の人の健康づくりに役立つ、健康増進のための社会的施設としての役割を担う、場合によっては地域の社会的施設としての役割を有するものであると理解されます。
地域の人々の健康増進の場としての施設
このため、この施設は、単なる身体的なスポーツ施設としての機能を有するばかりでなく、地域の人々の健康増進の場として、スポーツ健康教室・交流の場等の機能をも併せ持つものとなる可能性があるといえます。
スポーツ施設としての機能のための所要室
スポーツ施設としての機能を有するための所要室等としては、概ね以下のようなものを挙げることができます。
エントランスホール、フロント・受付
風除室を設け、多人数の利用者のためのスペースを確保し、フロントには受付カウンターを設ける。
プロショップ
スポーツ施設で使用する用品を展示・販売する売店。
体育館
各種室内競技を行うための天井の高い、大空間を構成する構造計画が必要となり、建物全体の中での建築的な整合性、構造的な整合性が必要となる。
トレーニングルーム
ウエイトトレーニングなどの各種の身体運動を行うためのスペースであり、各種運動器具を設置する。
エアロビクススタジオ
エアロビクスダンスや体操などを行うために、壁面には大型の鏡を設置する。
屋内プール
プールには、競泳・競技用、遊泳用、医療用などがあるが、一般的に25mの遊泳用プールが多く、気泡浴槽を併設することもある。
また、屋内プールは、天井を高くし、トップライトなどにより、明るく開放的な空間とすることが多い。そのため、屋根の架構には構造的な配慮を要する。
休憩スペース・採暖室(サウナ室)
プールサイドには、休憩スペースを設け、ベンチなどのファニチャーを置く。休憩時に身体を暖める採暖室を設ける場合もある。
ロッカールーム(更衣室)・シャワー室
トレーニングルームや屋内プールなどのロッカールーム、シャワー室などは専用に設ける場合と兼用する場合があり、兼用する場合は動線の交差を起こさないように計画する。
便所・パウダールーム
車いすに対応した多機能な便所を、各階の適切な位置に設ける。また、パウダールームを設ける場合も多い。
地域の人々の健康増進の場としての所要室
更に前述のように、地域の人々の健康増進・交流の場等の機能を有する室として以下のようなものが挙げられます。
健康教室(健康増進の知識等を養成するための教室)、交流の場(プラザ)、ラウンジ、カフェ、レストラン等。
バリアフリーへの配慮
更に本課題が地域の人々の健康増進の場としての役割を担うものであることから、幼児や高齢者・身体障害者をも対象とするものとなることも考えられ、このことからは、本施設全体に渡ってバリアフリーに配慮することが必要となることも考えられます。
パッシブデザインを取り入れた計画
本課題では、近年の傾向として、平成28年度、29年度の課題でも附帯条件として示されている「パッシブデザインを積極的に取り入れた建築物の計画」とすることが求められています。パッシブデザインは、建築計画により、出来るだけ設備機器に頼らずに、自然の風力等により、建物の環境の向上を図ろうとするもので、近年の環境・省エネルギーへの社会的関心を色濃く反映したものといえます。
―合格の鍵となる着実な建築計画力―
本課題では、平成21年度の試験内容の見直し以来の傾向としての建築計画力が特に重要な要素となってきている従来の試験の延長線上にあるとも言えますが、更に従来にも増して様々な視点からの建築計画上の配慮が求められる、受験者の裁量の余地の多い、自由度の高い課題条件となる可能性が高く、それだけに、着実な建築計画力を養成することが、確実な合格を得るための鍵になると考えられます。