(本欄は、当会の建築士講座講師が適宜分担して執筆し、当会建築士講座監修者(元国土交通省室長)が総合監修します。)
(第9回)令和5年7月28日
建築基準法における仕様規定と性能規定
建築基準法は、基本的に建築物の作り方の基準を定めた法律であると考えることができます。 一般的に物の作り方を示すものを仕様書といいますが、このことから建築基準法で安全な建築物をつくるために定められている規定(耐震、防火、耐火、避難等に関する様々な具体的な規定)は、物の作り方を示す仕様書のような規定(仕様規定)であるといえます。
ところで、この仕様規定を定める目的は、一定のレベルの安全な建築物を作るために必要な一定のレベルの性能を確保することであるため、近年は、仕様規定が目的としている「一定のレベルの性能そのもの」を基準として定める性能規定の動きが出てきました。
これは物の作り方そのものの仕様規定のみであると、一定レベルの性能を確保するための仕様規定によらない別の作り方が難しくなることともなりかねないためであり、(法38条に、法の規定以上の効力があると認められた構造方法又は建築材料は法の規定に適合しなくてもよいという、いわゆる特認条項が定められてはいるものの、)仕様規定と併せて性能規定を設けることにより、仕様規定による作り方によらないが性能規定に合う別の作り方をも可能にすることとなるためと考えられます。 これにより、仕様規定には合わなくても、性能規定を満たすような特殊な設計なども可能になります。
【問題】「避難上の安全の検証」に関する次の記述のうち、建築基準法上、誤っているものはどれか。ただし、建築物は、主要構造部を耐火構造としたものとする。
- 階避難安全検証法は、建築物の階からの避難が安全に行われることを検証する方法であり、火災が発生してから避難を開始するまでに要する時間、歩行時間、出口を通過するために要する時間等を計算することとされている。
- 階避難安全性能を有するものであることが、階避難安全検証法により確かめられた階については、当該階の居室の各部分から避難階又は地上に通ずる直通階段の一に至る歩行距離の制限の規定は適用しない。
- 全館避難安全検証法とは、火災が発生してから、「在館者のすべてが当該建築物から地上までの避難を終了するまでに要する時間」と、「火災による煙又はガスが避難上支障のある高さまで降下する時間」及び「火災により建築物が倒壊するまでの時間」とを比較する検証法である。
- 全館避難安全性能を有するものであることが、全館避難安全検証法により確かめられた場合であっても、「内装の制限を受ける調理室等」には、原則として、内装の制限の規定が適用される。
この問題は平成22年一級建築士法規の問題です。
この問題は避難等に関する性能規定についての問題ですので、避難に関する個々の設計上の規定(仕様規定)ではなく、避難上の安全の検証(一定の安全性能のレベルの確認)について定められている建築基準法の規定について問う問題です。
令129条の2の2では、建築物のいずれの火災室で火災が発生した場合でも、その建築物に滞在する全ての人が地上までの避難を完了するまで地上に通じる主たる廊下、階段等において避難上支障のある高さまで煙、ガス等が降下しないことを時間的に検証することを規定しており、火災により建築物が倒壊するまでに要する時間との比較ではないため、3は誤りです。
以上のような避難上の安全性能が確認された建築では、防火区画、排煙や階段の構造、廊下の幅、内装の制限等、防火や避難に関する個々の仕様規定の多くのものについて適合しなくてよいこととなります。
【問題】共同住宅(3階建、延べ面積300m²、高さ9m)の避難施設等に関するイ~ニの記述について、建築基準法上、誤っているもののみの組合せは、次のうちどれか。ただし、各階の床面積はそれぞれ100m²とし、耐火性能検証法、防火区画検証法、階避難安全検証法、全館避難安全検証法及び国土交通大臣の認定による安全性の確認は行わないものとする。
イ.住戸には、非常用の照明装置を設けなくてもよい。
ロ.共用の廊下で、片側のみに居室があるものの幅は、1.2m以上としなければならない。
ハ.避難階以外の階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなくてもよい。
ニ.各階の外壁面には、非常用の進入口を設けなければならない。
- イとロ
- イとハ
- ロとハ
- ロとニ
- ハとニ
この問題は、平成27年二級建築士法規の問題で、避難施設等に関する仕様規定についての問題です。この問題では、問題文の中で「耐火性能検証法、防火区画検証法、階避難安全検証法、全館避難安全検証法及び国土交通大臣の認定による安全性の確認は行わないものとする。」とわざわざ断っていますが、これは、この断りがないと、この問題は性能規定によってもよいこととなると、仕様規定についての正誤を問う問題としては成り立たなくなってしまうことによります。
イは令126条の4第一号より正です。
ロは令119条表より共同住宅において、住戸もしくは住室の床面積の合計が100㎡以下の階の共用の片廊下は、幅を1.2m以上としなくてもよいため誤りです。
ハは令121条1項五号より共同住宅の用途に供する階で、その階における居室の床面積の合計が100㎡以下の場合はその階から避難階または地上に通ずる2以上の直通階段を設けなくてもよいため正です。
ニは令126条の6より共同住宅について、高さ31m以下の部分にある3階以上の階には、消防用の非常用の進入口を設けなければならないが、1,2階の外壁面には非常用の進入口を設けなくてもよいため誤りです。
出題の傾向としては、設計上の個々の規定についての正誤を問う仕様規定についての問題が問題として作り易いことからも多く、安全性のレベルについての性能規定そのものについての正誤を問う問題はそれほど多くはありませんが、仕様規定と性能規定について法文に沿って充分理解したうえで双方の問題に確実に対応できるようにしておくことが肝要です。
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