(本欄は毎週原則金曜日に更新します。当会の建築士講座講師が適宜分担して執筆し、当会建築士講座監修者(元国土交通省室長)が総合監修します。)
(第6回)令和5年6月16日
他の建築士の作成した設計図書を許可なく変更することは可能か?
建築士が、他の建築士の作成した設計図書を変更することは実務において少なくありませんが、法的にそれがどのように係わるのか考える建築士は意外に少なく、また法的にそれがどのように問題となるのか認識していない建築士も少なくないようです。
しかしながら、上記の問題についての建築士試験での出題頻度は少なくなく、建築士法上、重要な意味を持つ規定でもあることから、以下の出題事例を通してしっかり法文の意味を理解しておくことが大切です。
【問題】次の記述のうち、建築士法上、誤っているものはどれか。
- 建築士事務所の開設者は、当該建築士事務所に属する管理建築士以外の建築士については、変更があった場合においても、都道府県知事に届け出る必要はない。
- 建築士事務所の開設者は、委託者の許諾を得た場合においても、委託を受けた設計の業務を、建築士事務所の開設者以外の個人の建築士に委託してはならない。
- 複数の一級建築士事務所を開設している法人においては、一級建築士事務所ごとに、それぞれ当該一級建築士事務所を管理する専任の一級建築士を置かなければならない。
- 建築士事務所を管理する一級建築士は、当該建築士事務所に属する他の一級建築士が設計した設計図書の一部を変更しようとするときは、設計した一級建築士の承諾を求めることなく、管理建築士としての権限で変更することができる。
この問題は平成23年の一級建築士法規の問題です。
設問1,2,3は、それぞれ建築士事務所開設後の変更届けに関する設問、建築士事務所の受託業務の再委託に関する設問、建築士事務所への専任の管理建築士の設置義務に関する設問でいずれも正です。
設問4は、設計変更に関する設問で、設計変更については建築士法19条で規定されていますが、設計変更についての管理建築士の権限との関係についての規定は特にないため、4は誤りです。
【問題】二級建築士に関する次の記述のうち、建築士法上、誤っているものはどれか。
- 二級建築士は、設計図書の一部を変更した場合は、その設計図書に二級建築士である旨の表示をして記名及び押印をしなければならない。
- 二級建築士は、原則として、鉄筋コンクリート造2階建、延べ面積500m²、高さ9mの病院の新築に係る設計をすることができない。
- 二級建築士は、一級建築士でなければ設計又は工事監理をしてはならない建築物に関する調査又は鑑定の業務を、原則として、行うことができない。
- 二級建築士は、他の二級建築士の設計した設計図書の一部を変更しようとするときは、当該二級建築士の承諾を求めなければならないが、承諾が得られなかったときは、自己の責任において、その設計図書の一部を変更することができる。
- 二級建築士は、構造計算によって建築物の安全性を確かめた場合においては、遅滞なく、その旨の証明書を設計の委託者に交付しなければならない。
この問題は、平成26年の二級建築士法規の問題です。
設問1は建築士の業務上必要な表示行為に関する設問で、設問2は一、二級建築士でなければ設計することのできない建築物の規模等に関する設問で、また、設問5は建築士の業務上必要な行為として規定されている設問で、いずれも正です。
設問3は建築士法上、一、二級建築士、木造建築士について各々、設計・工事監理を行うことのできる建築物の規模等に関する規定はあるものの、設計・工事監理以外の調査や鑑定等に関する規定は特に定められていないため、設問3は誤りです。
設問4は設計変更に関する設問ですが、建築士法19条では「他の建築士(同じ事務所の建築士であっても)の設計した設計図書を変更する場合は原則として、原設計者である建築士の承諾を求めなければならない。但し、承諾を求めることができない場合や承諾を求めることができても承諾が得られなかった場合は、自己の責任で変更することができる。」と規定されているため、設問4は正です。
この条文では、前半では承諾を求めなければならないと規定されており、後半では承諾を得られなくとも自己の責任で変更することができると規定されており、一見矛盾しているようにも思われますが、前半では「承諾を求めなければならない」と書かれていますが、「承諾を得なければならない」とは書かれてはいないので、矛盾していないこととなります。
この規定は前半で理想を、後半で現実を折り込んだ、著作権等にも係わる建築を文化的な事象として考える上でも重要な規定であるということができます。
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