全日本建築士会について 50余年の建築士育成事業の実績をもとに、社団法人全日本建築士会が総監修した、建築関連資格の特別養成講座

合格への鍵 講座>本試験の総評>設計製図の課題発表(一級)

平成 27年度一級建築士

(注)要求図面に、図示又は記入するもの

  • 主要寸法、室名、床面積
  • 設備スペース、設備シャフトの位置
  • 避難階段に至る歩行距離・歩行経路   等

(1)近年の出題傾向との係わりについて

近年の設計製図試験の課題の出題傾向として、社会状況を反映したものや敷地の周辺環境との係わりを重視したもの等が挙げられますが、本年の課題は、我が国において急速に進む高齢化現象の下での、デイサービス(日帰り介護)を行う高齢者施設付きの高齢者向け集合住宅で、まさに時宜を得た課題であると考えられます。

なお、過去の高齢者に係わる課題として、平成11年度の「高齢者施設を併設した集合住宅(高齢者施設については、デイサービス(日帰り介護)及びショートステイ(短期入所生活介護)を行う施設である。)」、平成23年度の「介護老人保健施設(通所リハビリテーションのある地上5階建ての施設である。)」があります。

(2)課題の内容の分析

先ず、本年度の課題が、デイサービス付き(日帰り介護を行う高齢者施設付き)の高齢者向け集合住宅であることから、デイサービスは、一般的に近隣に住む人が利用するためのものであると同時に、高齢者向け集合住宅に居住する人のためのものでもあると解釈することができます。 (但し、このデイサービスが主として近隣に住む人が利用するものなのか、主として高齢者向け集合住宅に居住する人が利用するものなのか等については、あくまでも課題条件を充分に把握・理解した上で判断する必要があります。)
以上は、平成11年の課題の基本的には近隣外部の人が利用するための施設としてのデイサービスを併設するものとは、基本的に異なるものです。また、本年度の課題の高齢者向け集合住宅が通常の生活には支障はないものの、高齢者の日常生活が円滑に行われるようにバリアフリー等に配慮したものであるのに対して、平成11年の課題では、あくまでも一般の集合住宅である点も異なります。更に23年度の課題の常時介護を必要とする高齢者のための施設とも大きく異なるものとなっています。

なお、「高齢者向け集合住宅」のための指針としては、高齢者向け優良賃貸住宅整備基準(平成13年)がありますが、その後、平成23年度に制定された国土交通省、厚生労働省共管の「サービス付き高齢者住宅」の制度があります。
本年度の課題の計画上の基本的な留意事項としては、以下のような点が挙げられます。

(1) 建築計画

この課題の対象施設である高齢者向け住宅とデイサービス部門の位置づけ、相互の関係を課題条件から着実に把握することが建築計画を進めるための前提として極めて重要です。
① 高齢者向き集合住宅とデイサービス部門へのアプローチの計画
② 高齢者向き集合住宅の計画
③ デイサービス部門の計画
④ 高齢者向き集合住宅とデイサービス部門との動線計画
⑤ デイサービス部門1・2階の縦動線計画
(本年の課題の要求図書が、1・2階平面図と基準階と指定されていることから、1・2階はデイサービス部門と集合住宅の管理部門が占め、集合住宅は基準階となることが想定されます。)

(2) 構造計画

本年度の課題で基礎免震構造を採用した建築物と指定されていることから、基礎免震構造を示す断面図及び基礎免震構造を採用した構造計画主旨の記述 ・基礎免震構造に関する基本的な知識のほかに、給排水管等の設備配管に地震時の変形に対応するための建物内部から敷地への接続部分へのフレキシブル管の採用や設備機器の固定に対する配慮など、広範囲な知識を身につけておくことが重要です。

(3) 設備計画

設備としては、空調機械室、電気室、受水槽、浴室のための給湯機・貯湯槽、自家発等が想定され、また、設置する場所及びその寸法については正しく理解しておくことが必要です。なお、空調方式については、集合住宅の各住戸、共同利用スペース、デイサービスゾーンなど、各用途に適した空調方式を採用することが求められます。
設備計画上、維持管理上配慮すべき事項、個々の設備や総合的な見地からの省エネルギー、環境への配慮すべき事項等について、必要事項を整理し、理解しておくことも必要です。
設備計画については、設備機器や設備シャフト等の位置やフレキシブル管の採用など免震構造との関連についても留意しておく必要があります。

(3)課題への対応の基本的な留意点

平成21年度からの試験制度の大きな変更点は、それ以前の試験では、設計条件の室名、面積等がほとんどすべてにわたって詳細に示されていたのに対して、設計条件として大枠は示されるものの、詳細な部分については受験者自らが考えることとされた点で、これは設計者の持つべき能力をよりよく評価することを試みた点と考えることができます。このため、本年度の課題対象建物についても確実なしっかりした知識を持つことが重要な条件となります。
更に、受験者に過度の負担をかけないためとして前記のように、余りに複雑な機能となる複合施設のようなものは課題対象としないとしている点が挙げられます。しかしながら、この点については平成21年度の課題が「展示場を1階に有する事務所建築」で実質的には複合施設とも考えられるものであり、また、平成22年度の課題は「地方都市に建つ美術館」で非複合施設ではあっても美術館自体が極めて複雑な機能を持つ施設であることなど、以降の課題の建物も同様に複雑な機能の複合施設であり、更に本年度の課題も先に記しましたように、相当に複雑な機能の複合施設であることから、試験制度の改定後も実質的には課題対象の施設は、様々な複雑な機能を有するものであることは、試験制度の改定前とほとんど変わることなく、このため、建築計画(ゾーニング、動線計画、配置計画等)の力が大きく試験の合否を決める鍵であることは変わりのない点であると考えられます。
他方、新制度では、構造計画、設備計画についても従前以上に重視され、構造計画、設備計画の主旨を何項目かにわたって記すこととされていますが、構造計画、設備計画については、極端に専門的に高度な事項よりも、あくまでも広範囲な基礎的な知識をしっかりと確実に身につけておくことが必要であると考えられます。
以上から、構造、設備、法規等、様々な知識を着実に身につけておくことが不可欠であることは言うまでもありませんが、試験の合否を大きく左右する重要なかなめとしての建築計画を身につけること、その前提としての課題対象施設の性格、機能、諸元等についての徹底した研究が極めて重要なポイントであると考えられます。
- 2015年7月24日 -

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