近年の出題傾向との係わりについて
近年の設計製図試験の課題の出題傾向として、社会状況を反映したもの、敷地の周辺環境との係わりを重視したもの等が挙げられますが、本年の課題は、我が国において急速に進む高齢化現象の下に、社会福祉制度、それに伴う福祉施設に係わる様々な深刻な社会状況を反映した「介護老人保健施設」で、まさに時期を得た課題であると言えます。
なお、本年度の課題に類似した過去の課題として、平成11年度の課題の「高齢者施設を併設した集合住宅」がありますが、本年度の課題は、平成21年度の試験制度の改正に伴う、課題対象建物は過度に複雑なものとしないとの主旨から、異種の種類の複合施設ではない「介護老人保健施設」となっていると考えられます。
課題の内容の分析
上記のように本年度の課題は、複合施設ではない「介護老人保健施設」となっていますが、「介護老人保健施設」は、近年、制度的に整備されてきた様々な種類の高齢者施設の中でも、常時介護を必要とするが、自宅で介護を受けることのできない高齢者を入所させる「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」と異なり、病状が安定期にあって、入院治療の必要はないが、リハビリテーションや介護、看護等の医療ケアを必要とする要介護高齢者に対して、医療ケアと生活サービスを提供する施設です。
平均在所期間は、3〜10ヶ月程度と介護老人福祉施設に比較して短く、また、在宅復帰を前提にしたリハビリテーションを行う施設ですが、本年度の課題では「通所リハビリテーションのある」として、特にリハビリテーションが日帰り介護(デイサービス)の対象ともなっていることは注目される点です。更にこの課題の施設は、入所者の居室(4人室以下)ゾーンをも含むものであることなどからも、課題の対象施設は複合施設ではなくとも、機能上は、様々な複雑な機能を併せ持つものであると言えます。
課題への対応の留意点
平成21年度からの試験制度の大きな変更点は、それ以前の試験では、設計条件の室名、面積等がほとんど全てに渡って詳細に示されていたのに対して、設計条件として大枠は示されるものの、詳細な部分については受験者自らが考えることとされた点で、これは設計者の持つべき能力をよりよく評価することを試みた点と考えることができます。
更に、受験者に過度の負担をかけないためとして前記のように、余りに複雑な機能となる複合施設のようなものは課題対象としないとしている点が挙げられます。しかしながら、この点については平成21年度の課題が「展示場を1階に有する事務所建築」で実質的には複合施設とも考えられるものであり、また、平成22年度の課題は「地方都市に建つ美術館」で非複合施設ではあっても美術館自体が極めて複雑な機能を持つ施設であること、更に本年度の課題も先に記しましたように、極めて複雑な機能を有する施設であることから、試験制度の改定後も実質的には課題対象の施設は、様々な複雑な機能を有するものであることは、試験制度の改定前とほとんど変わることなく、このため、建築計画(ゾーニング、動線計画、配置計画等)の力が大きく試験の合否を決める要であることは変わりのない点であると考えられます。
他方、新制度では、構造計画、設備計画についても従前以上に重視され、構造計画、設備計画の主旨を何項目かに渡って記すこととされていますが、構造計画、設備計画については、試験の性質から専門的に高度な事項を評価の対象とすることは難しく、あくまでも基礎的な知識をしっかりと確実に身に付けておけば問題ないものと考えられます。
以上から構造、設備、法規等、様々な基礎的な知識を確実に身に付けておくことが不可欠であることは言うまでもありませんが、試験の合否を大きく左右する重要な要としての建築計画を身に付けること、その前提としての課題対象施設の性格、機能、諸元等についての徹底した研究が極めて重要であると考えられます。
なお、本年度の課題の要求図面として、1階平面図兼配置図、2階平面図、基準階平面図、断面図の他に、2階梁伏図が示されていることから、「介護老人保健施設」における非居室部門は1階、2階に設けられ、居室部門は3階〜5階に設けられることとなること、及び解答用紙の枚数等が従前通りであるとするならば、敷地面積、建物規模等は相当に制約されたものとなる可能性となることも留意点と言えます。
- 2011年7月22日 -

国土交通省認可公益法人の社団法人全日本建築士会が公益事業の一貫として実施しております建築士講座は、低価格、高品質で、高い実績をあげています。
重点事項対策の解説DVDを無料プレゼント。
当講座に資料請求、またはお申し込みの方全員に、「傾向と対策、解説DVD(当講座の総合監修者・元国土交通省室長による)」を無料プレゼントしています。
|